01話 始まりの主従関係


全ての始まりは、いつもと何の変化もない朝の事だった。
私が姉の家に転がり込み、早3年が経とうとしていた目前の事。 何かが起ころうとしているなんて、気づかない私はいつもと何の変化もない平和な毎日を過ごしていた。

「はぁ…はぁ…」

そういつもと何にも変わらず、私は…。

「く!あと、少し!」

大遅刻!!!

このままだと、間に合わないかな?くそぉ…!!
私の足の速さは並。そんなに速くもないし、そんなに遅い方でもないとも自分では思っている。しかし、この朝の瞬間だけはちがう!
世界オリンピックで金メダルがとれるんじゃねぇ?!と、自分で思うくらいの速さで学校の廊下を駆け上って行くのだ。

「お、遅れて申し訳ござ…ギャア!!」

バタン!

勢いに任せて、教室のドアを開けて入ろうとしたまさにその一瞬。私の目の前に広がる光景が一変した。 聞いて下さい…。なんとも情けない話なんですよ。旦那。なんと、教室に入るや否や、見事にこけてしまいました。これが自分でも泣きたくなる程、痛い。

!お前の遅刻癖はいつになったら治るんだ?」
「あ、あははー…すいません!」

私は、体勢を起き上がらせ、その場で正座をする。っていうか、私コケたのにそこ無視ですか?ちょっとは心配してくれても…って、キューピー下山じゃん!うわ、最悪。

目の前に居る先生は、私の苦手な先生だ。生徒によって態度変えたり、エラそうなのは口だけだから生徒達の評判もあまりよくない。

そんなとき、私が暫く座りこんだままの体勢でキューピー下山と話しこんでいたいた私の目の前に誰かが近づいてきた。

「ん?」

それはとっても可愛い女の子…ではなく、私がよく知っている。生意気でいつでも自信たっぷりな男の子。そう、私の昔の幼馴染だった…。

「お前…」
「…つばさ?」

私は、ゆっくりと彼の名前を口にする。止まっていた時間が動きだした瞬間だった。

…?」

私の名前を呼ぶ元幼馴染は、椎名 翼。
小学五年生の時に、私はその幼馴染に何も言わずに引っ越した。
…だけどもさ!なんで?なんで、私はこんな扱いを受けなきゃいけないの?!

「ちょっと!聞いてんの?!」
「聞いてますとも!勿論でございますよ!はい!」
「お前は全然、変わってないね。その性格」
「そ、そうかな?」
「それで?」
「…何?」
「連絡一つも寄越さないで、今の今までお前は何やってたんだって聞いてるんだよ!」

うわぁ…相変わらず、容赦ないマシンガントーク…。 って、懐かしがってる場合じゃない。どうにかしないと…。

「ご、ごめんね!私がいなくなって、翼がそんなに寂しがってくれるとは思わなか…」
「勘違いするなよ。下僕の分際で、なに勝手に居なくなってるんだってことを僕は怒ってるんだからな」
「いや、ひどくない?!」
「黙れ」
「ゴメンなさい!」

…はっ!つい昔の癖で反射的に謝ってしまった!

「まぁ、僕の言うこと聞いてくれたら許してやってもいいけど?」
「べ、別に許してもらえなくても…」
「一生こき使ってやるから覚悟しろよ」
「嘘です。許してもらいたいです。なんでもします」
「交渉成立」

ニッコリ微笑む翼の考えていることなど、その時の私にはまだ想像もしていませんでした。 この交渉が、私のその後の運命を大きく左右されることになると言うことを…



「む、むむ~…ん!はぁ…」

私は、ぐっと大きな背伸びをして、体の固さが和らいだところでダランと力を抜き、落胆する。

幼馴染との感動の再会を果したこの私は、今まさにその幼馴染である椎名翼の見事なサッカー技を体育の授業で拝見しております。 しかし、我が幼馴染ながらまぁ、転校してきて早々すさまじくモテる。 …皆、見てくれに騙されてるよ。と声を大にして言いたい。

さん、椎名君と幼馴染なんだよね」
「いいなー」
「あはは…」

代わってくれるなら代わってくれ…!とクラスメイトの女の子達の言葉に対して、心の中で叫ぶ。

女子たちの歓声が上がっていた中、授業に出ていなかったはずの同じクラスの井上直樹が翼の前に立ち塞がる。

よく不良で問題児。と騒がれている内の一人だけど、出席番号と席が近い私にとってはクラスの中でも比較的仲がいい男の子の一人であり、私が入学した時に一番初めに話をした奴だ。 その容姿や態度から先生達や周りの生徒たちからは畏怖されているが、決して悪い奴じゃないと私はよく知っている。

「俺をぬいてみろや」

そう直樹が言い、翼にサッカー勝負を挑むも、翼は簡単にボールを持ったまま直樹の横を抜いてみせる。 結果が惨敗な上に翼の事をよく知らない直樹は、翼の胸倉を掴みあげる。

「あ、直樹!だめ!」

という私の声は惜しくも届かず…

「なっ!」

思いっきり翼に投げられ、地面に叩きつけられた。

「うわ、アレ痛いんだよねー…」
「経験したことあるみたいに言うわね」
「ま、まぁね」

小さいころ、翼に何回受けたか分かりませんけど!! 我が親友のとそんな話をしていると、翼は倒れた直樹から私の方に視線を向けた。

「な、なに?」

口角を釣りあげ、私を見る翼。これは何か企んでいる表情だと瞬時に悟る。背筋がぞくりとするのが分かった…。



「…それで?なんで私は翼の家にいるんだろうか」

私は、深いため息を一つ吐く。なぜ私が我が幼馴染の家に居るのかという話だが… 体育で起きた事件の後に突然、翼に直樹たちのよく行く場所を聞かれた私。

。お前、あいつ等と仲良いんだろ?」
「仲良いって言っても、席が近いからよく話すっていうくらいだけど…」
「充分。あいつ等が行きそうな場所くらい分かるだろ」
「え。うーん…。多分…」

なんとなく思い当たる場所を私がいくつか答えると、満足げに翼は頬笑み私に思いがけない言葉を言う。

「お前どうせ、暇だろ?今、誰もいないだろうけど俺の家連れて行ってやるから正座して待ってろ」

いや、正座って…どんな拷問だよ…!そもそも悪かったな!暇人で!私は、どうせいつも暇人ですよ! …とまぁ、今吐き出していることを全部翼に反論できるわけがなく、翼に言われたままこうして待ちぼうけをくらわされている。

しかし一体私は翼が帰ってくるのを何で待たないといけないの?帰ってくるの遅くない?なんて、暇のあまりにありとあらゆる考えを膨らませていた所で玄関のドアが開く音が聞こえた。

「あ。翼が帰ってきたのかな?」

そう思いドアの方へ向かうとするも暫く翼の言われたとおりに正座をしていた私は、足の感覚がなくなっていたことに気が付かず、そのまま床にベッドダイブをかましてしまう。

「しまった…忘れてた…いったぁ…」
「何やってんの、お前」
「なにって翼が正座してろって…え?」

翼の声が聞こえたと思い、顔をあげると立っていた人物を目にして思わず私は大きく目を開く。目の前の人物に驚きながらも出た言葉は…。

「な、何か用?」

そんな単調な言葉しかでてこなかった哀れな私。

「いや、何か用?って、それはないやろ

だって、なぜか傷だらけで、さっき投げられていた直樹とその学校でも有名な不良組と言われるメンバーと一緒に翼が目の前に立っていたら誰だって驚くだろうとツッコミを入れてやりたい。
だけど、まずは状況を聞かなくては話が進まない…。落ち着け…と言い聞かせながらも、私は、こんな事態を作り出した張本人であろう翼に目を向け睨みつける。

「翼!どういうことよ!これ!人のこと散々待たせといて!」
「うるさい」
「現状を聞いてるだけでしょ?!」
「わかった。説明してやるから落ち着け。とりあえず、こいつらの怪我の手当てしてやれよ」

嫌な予感しかしない…。そんなことを思いながらも私は、翼の家に置いてあった救急箱で皆の怪我の治療をしながら事の詳細を聞いた。

「要するに…馬鹿がドジ踏んで、ヤクザに絡まれたところを翼が入り、ドサクサにまぎれて逃げて成り行きで仲良くなったと!」
「いや、もうちょい言い方があるやろ!」
「ないわよ!だって馬鹿がドジ踏んだのは本当でしょ!」
「なんやとー!」

私が直樹と言い争っていると、横から馬鹿にしたような小さな笑い声が聞こえてきた。私も直樹も思わず口を閉じる。 独特なスポーツマン体系の彼は確か一つ年下の男の子だ。確か名前は黒川柾輝。私は未だに笑っている彼を睨みつけて冷たく言い放つ。

「…なんでそんなに笑ってるの?」
「いや、悪い。あんた、面白い人だな」
「確かに、は面白いよな。俺らなんかに物怖じせずに話してんだからよ」
「五助ー。それ、褒めてるの?」
「褒めてるだろ」
「…全然褒められてる気がしないんだけど」

私は、頭の中で一人一人顔と名前を整理させながら皆の顔を見渡す。畑五助が同意したように返事を返す。 五助は同じクラスで直樹とよくいるから、私もよく知っている人物ではあるが、やっぱり私はこの状況が不満でならない。 4人は大笑いをしているし、なんかこの現状は女の子として複雑だ。

「ああー!もう、うるさい!翼!そろそろ本題に入ってよ!」

飲み物を持って部屋に戻ってきた翼に、私が助けを求めるようにそう言う。

「そうだった。、お前、あの交渉忘れてないよね?」

翼がさらりと話を本題にもどすと、四人も私達の会話に耳を傾ける。 交渉と言うと…ぁあ、確か翼と再会した時か。

「勿論覚えてるけど…。はっ!言っておくけど私、大したことはできないよ!」
「安心しろ。お前でも出来る簡単な仕事だ」
「…し、仕事?」

翼のにっこりとした表情を見て私は嫌な予感がどんどん大きくなる。

「俺、こいつらとサッカー部作るんだよね」
「あーなるほど。うん」
「お前がそこのマネージャーだからな」
「なるほ…ど?ん?は?」

なんか、言った?あれ?
今、確か、マネージャー。って聞こえたんだけど…。
え?つまりなにか…私が…翼が作るサッカー部のマネージャー?!

「ぇえええ!!」
「うるさい。近所迷惑」

翼に頭をボカっ!とグーで殴られる。私はとっさに殴られた箇所を両手で抑える。

「痛っ…つ、翼!無理だよ!私そんなのできないよ!」
「いいからお前がやるんだよ」
「私、サッカーだって経験ないし、当たり前だけどマネージャーなんて経験ないよ!ルールだって危ういんだから!」
「俺がいいって言ったらいいんだよ。そもそもお前、自分の立場わかってんの?」
「え」

私が余程うるさかったのか翼は、冷たい視線で私の方を見る。

「俺、まだお前のこと許してないんだからな。そんな俺との約束を破ろうって言うのか?お前は」

翼の方から、ヒンヤリとした空気が私の方へ流れてくると同時に、勝手に引っ越したことに対する罪悪感が増幅してくる。

「っ~~!よ、喜んで引き受けます!」
「「(弱っ!)」」

周りにいる皆がそう思ったのは、言うまでもない。

しかし、本当にありえないことになってしまった。最悪だ…。翼の鬼姑! 私が心の中でそう叫ぶと、そんな心の中を読んだかのように翼はにっこりとした黒い笑みで私にいう。

「文句があるなら聞いてやるけど?」
「滅相も御座いません!」

私の平和な生活がバリバリと、壊れていく音がする。
comeback…私の平穏…。

あとがき
大幅に修正をきかせてリスタートです。 本筋は変わらない…はず(笑)

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