04話 野球大好き!山本武


「へー。獄寺って、そんなに勉強できるんだ」
「吃驚しちゃったよ」

私は、昨日ツナがテストの点が悪くて退学になりかけたという話を聞いた。

「しかし、根津が学歴詐称だったなんて…」

私達の理科の担任で、一流大学を出ていると常に言い張りながら、テストの点が悪い生徒をクラス中に釣るしあげるどうも嫌味な先生だったが、 まさか一流大学出身というのが嘘で学歴詐欺をしていたとは思わなかった。

「こっちは退学にならなくて本当によかったよ」

ツナが安堵の息を吐いてそう言うが、ツナの思考を読めてしまった私は少し意地悪なことを言ってしまう。

「…京子ちゃんに会えるから?」
「えぇ?!」
「なーんちゃって」

いいよ、言わなくて。分かってる。
自分で言い出しておいてなんだが…ツナの口からは直接聞きたくない。
拗ねる私の様子を理解したのか、ツナは話を逸らすように口を開く。

「そ、それよりは何処に居たんだよ!先生なにも言わなかったぞ!」
「ああー…先輩に呼ばれて委員会の仕事してたんだけど、思ったより長引いちゃって…。まだ書類整理終わりそうもないよ…。」
「相変わらず忙しそうだね」

大抵、授業中に行われていいと優遇されている委員会なんて存在しないだろう。
私が所属している、とある委員会を除けばだけど…。

「それより、今日の体育は野球でしょ?頑張ってね!ツナ!」
「あ。そうだった!」

ツナは思い出したように、嫌そうな顔を見せた。



ピーッ!



グラウンドに試合開始の笛の合図が鳴り響く。 明らかにツナはやりたくなさそうだが、そんなこととはお構いなしに体育の授業が始まる。

「あ、ツナだ」
「本当だ。ツナ君だ」

私達女子は、野球が授業内容に無いので男子の野球を観戦している状況だった。
京子ちゃんと一緒に他愛もない話をしながらもツナの姿を目で追いかける。

「次は、山本君だね」
「あ、本当だ。野球部なんだよね」

京子ちゃんの言葉で、私はバッターボックスに立ってバッドを持つ山本君に目をやる。 名前は、山本武。既に野球部のレギュラーになっていて、優しい大らかな性格でクラスの皆からも凄く人気ある人だ。 私も席が近いだけに、比較的話をすることが多い。
そんな山本君が大きくバットを振るうと、ボールが宙を描くように頭上を越えて行った。

「見事なホームランだね!」
「本当だ!すごいね!」

そう言ってクスクスと京子ちゃんは可愛らしく笑った。 やっぱり可愛い…と女の私でもそう思った。
山本君のホームランがあったものの、惜しくもチームは負けてしまったが無事に体育の授業が終わる。
私も京子ちゃんに誘われて教室に戻ろうと思ったものの、ツナが居ないことに気がつき、私はきょろきょろとツナの姿を目で探す。

「どうしたの?
「あ、ううん。大したことないんだけど…」

先に戻ったのだろうか?
いや、私がツナを見逃す訳はないと思うんだけど…。
ツナの姿が見えないのが気になる私は、「ごめん!忘れ物したから、先に戻ってて!」と京子ちゃんに告げ、再びグラウンドへと戻る。

「あ!ツナいたー!」

私は、ツナがトンボがけをしている後姿を見つけると、そのままツナの腕に抱きつく。

「うわっ!!」
「よぉ、
「なんだ!山本君と一緒だったんだ。姿が見えなかったから探したんだよ」
「ご、ごめん。山本と話してたんだ」
「ははは。俺とツナ結構、気が合うんだぜ」

珍しい組み合わせに、私が不思議そうな表情で未だに腕に抱きついたままツナを見上げると、ツナは少しだけ目線を逸らしながら言う。

「そ、そうなの、かな?」
「ふーん」
「それより、お前ら本当仲いいな」

「私とツナ?」
「付き合ってんのか?」
「そ、そんなんじゃないよ!とは幼馴染なんだ!」

そんなに思いっきり否定されると凹んでしまうわけだが…。
私は、少し頬を膨らませながらも冗談じみた口調でツナに言う。

「ツナ、照れ隠しはなしだよ!婚約者の仲じゃない!」
「なっ!お前、またそんな作り話を!」
「作り話じゃないよ!前は、結婚してくれるって言ってたもの!」
「それ、いつの話だよ!」
「幼稚園の頃!」
「昔すぎるよ!」
「ハハハ!お前ら本当おもしれーのな」



「あの山本君が、スランプ?」
「だから俺なんて言ったらいいか困っちゃったよ」
「まぁ、リボーン君のおかげで、結果が良かったとも言えないもんねー」

私はツナと一緒に学校から帰りながら、山本君が野球でスランプになり、ツナに相談を持ちかけていた事を聞いた。

「そうなんだよなー…。でも、ちょっと嬉しかったな。山本が相談してくれたのは」

嬉しそうな笑顔を見せるツナに、私まで嬉しくなってくる。 「よかったね」とツナに言葉を返す私に、「うん」とうなずくツナ。 そろそろ互いの家が見えたところで、ツナが思いついたように私を見る。

「あ、。あとで家来るなら、晩御飯食べて行きなよ。今日、の親、仕事で居ないんだろ?母さんに言っとくからさ」
「え!良いの?!」
「いつも言わなくても勝手に来てるくせに」
「そうだけど。嬉しいんだもん!ツナから誘ってもらえるなんて!」
「そ、そう?」
「うん!あ、でもツナ私が部屋にいるからって変な気を」
「起こさないから!」
「私はいつでもその気だよ!」
「お前なー…」

呆れるようなツナの視線を無視して、浮かれた様に喜ぶ私にツナは息をついた。

「でも一回、家帰るね。荷物置いたら、直ぐに行くから!」
「じゃあ、待ってるよ」
「うん!」

ツナの一言でこんなにも気分が変わるなんて…つくづく自分でも単純だと思う。



「ツーナー!」

家に荷物を置き、私服に着替えた後で私がツナの部屋に駆けつけた。
なんの躊躇も無しにいつものようにドアを開けた瞬間、リボーン君の方から火が噴き出した。

「あぢっ!」
「え?なに!火事?!」
「燃えるの意味がちげーよ」
「俺の台詞を言うな!」
「火遊びは危ないよ!」
「ちゃおっス、。よく来たな」
「切替はやすぎだろ!」

リボーン君から放たれた火によって危うく、ツナの部屋が燃えるところでした…。


そして、次の日。学校に行って直ぐにクラスメイトの男の子から嫌な噂を耳にする。 それは、山本君が屋上から飛び降りようとしてるとの事だった。

「…え?」

なんでも、昨日一人で居残ってて野球の練習をしていて無茶をし、腕を骨折したらしい。

「で、でもそんな…自殺なんて…」

クラスの皆は、半信半疑ながらも慌てて屋上に向かう。 私たちも屋上に急ごうとツナの方を見ると、ツナが青い顔をして頭を抱えている。

「ど、どうしよう」
「ツナ…」
「俺のせいだよ!俺が山本に、努力すればなんとかなるとかいい加減なこと言ったから…。」
「そ、そんなことないよ!とにかく屋上に行こう!」

私は、ツナを無理やり引き連れて屋上へと向かった。

「野球の神様に見捨てられた俺にはなーんにも残ってねぇんだ」

山本君は今すぐにでも飛び降りそうな勢いだった。 屋上のフェンスはサビていて、今にも体重を掛ければ折れそうだ…。

「どーしよう!」

どうすれば山本君を助けられるのか、ツナは頭を抱えて悩みこんでいる。 そんな時、私たちにとって聞きなれた声が聞こえてくる。

「山本を友達として助けたいんだろ?」
「リボーン君?!」

いつの間にか私達の足元に立っていたリボーン君に視線を落とす。

「だったら逃げんな」

そう言い、リボーン君は銃をツナに突きつけた。

「ちょっ!今は、たんま!」

ツナはリボーン君から逃げた勢いで走りだした。 気がつけば、いつの間にかクラスメイト達の横を通り過ぎ、山本君の前へと飛び出た。

「ツナ!」

私がツナの方へと行こうすると、リボーン君が私の腕を引っ張る。

、お前はこっちだぞ」
「へっ?!」

私は、リボーン君に無理やり手を引かれて、何故か屋上の外へと連れ出された。


「ツナ…山本君…」

私の心配をよそに、リボーン君は私を連れてどんどん階段を下りていく。 行くように言われた場所は、校舎の外。そして、上を見上げると、山本君の後姿がかすかに見える。

「ここって、ツナ達が居る真下だよね?」

リボーン君に問いただそうとリボーン君の方を見るが、気がつけばリボーン君の姿は無い。 リボーン君をきょろきょろと探していると、突如、バサッ!と勢いよく上から何かが私の前に落ちてきた。

「うえっ?!」

落ちてきたものに手を伸ばして確認してみると、これは…ツナの制服だ。 でも、なんで?と、何気なくもう一度上を見上げた先に、思いもしない光景が広がってきた。

「死ぬ気で山本を助ける!!!」
「え…えええええ!」

死ぬ気になったツナが自分より先に落ちている山本君を追うように手を伸ばしている。 恐らく制服は、ツナが空中で死ぬ気になったと同時に一緒に落ちたのだろう。 でも、このままだと勢いよく落下してしまう…。
ど、どうしよう!とツナの制服を抱えたまま私が、ワタワタしていると、木の上に登っていたリボーン君がツナの頭に向けて追加で弾を発射するのが目に入った。 するとツナの頭から生えていたバネのようなもののおかげで地面に跳ね返り、着地した。

「スプリング弾だぞ」
「す、すごい!リボーン君!」
「いてて…」
「ツナ!」

ツナの声に私はツナの制服を持ったまま二人に駆け寄る。

!」
「二人とも怪我してない?!」
「う、うん」
「ああ、平気だぜ」
「よかったー!」

怪我が無い二人の姿を見て、私は胸を撫で下ろす。

「…ツナ、お前すげーな」
「えっ?!」
「お前の言うとおり死ぬ気でやってみなくちゃな」
「山本…」
「馬鹿がふさぎこむとロクな事ねーな!」
「無事で安心したよ」
、サンキューな」
「ごめん、
「ううん。私は何もしてないよ!ツナがすごかったんだから!」

そういって私が正面からツナに抱きつく。 ツナが「おわっ!」と驚いて後ろに転びそうになるも、地面に片手をつきつつも私の体を受け止めてくれた。

「だから急に抱きついてくるなってば!!」
「えへへ」
「ったく…」

口ではそう言いつつも、いつもと違って振り払おうとはしないツナに甘えるようにツナに抱きついた。

「…なー、
「へっ?」

私とツナの様子を見ていた山本君が、私の方に真剣な視線を向けて尋ねられたので少し驚きつつも山本君の方を振り返る。

「俺もって呼んで良いか?」
「え!勿論だよ!全然いいよ!」

山本君の言葉に私がツナから離れてそう言うと、山本君はいつものように明るい笑顔を見せる。

「おっ、サンキュー!俺の事も武でいいからな」
「分かった。じゃあ…改めて、よろしくね!武!」

こうして、私達に新しい親友ができた。

「そうだ!はい。ツナ、制服」
「あ、ありがとう」
「いーのいーの!お礼はキスでいいよ」
「ぶっ!」
「じょうだーん!じゃ、私先に戻ってるね!武も後でねー」

ツナに制服を手渡したあと私は、ツナ達に手を振り先に教室へと戻った。

「あいつ!シャレになんないよ!」
「なー、ツナ」
「え?」
「俺、やっぱのこと好きだわ」
「ええええ!山本、のこと好きだったの?!」
「いや、前から話してても、おもしれー奴だなとは思ってたんだけどさ」
「そ、そうなんだ…。(そーいえばって…)」
「いやー、改めて見ると、本当に面白い奴だよな!」
「(昔からなにかと人受けはいいんだよね…)」

しかし、面白いって…それは好き、なのか?
山本の考えていることが分からない…。とツナは心の中で呟いた。

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