02話 負けず嫌い


「リョーマ君、洗濯物だけど」
「そこ置いといて」
「リョーマ君、晩御飯の時間…」
「分かったから、部屋に入ってこないでよ」
「あ…ごめん」

私がこの家に来て一週間が経とうとしています。
だけど…もう無理だ!
私は、彼に相当嫌われている気がしてならない。


「はぁ…」

食卓のテーブルに肘をたてて、深いため息をつくの向かい側に座り、新聞を広げていた南次郎がちらりと新聞をどけての方を見る。

「気にすんなって、ちゃん」
「そんなこと言っても南次郎さん。さすがに心が折れますよ」
「あいつは、元から冷たい性格だからなぁ」
「そんなことないですよ。多分…」
「そうか?」
「きっとリョーマ君が冷たいのは、なにか私に問題があるんですよ」
「いや、それはねーだろ!まぁ、確かにあのリョーマの性格を急に変えるのは無理だけどな」

南次郎は声をあげて可笑しそうに笑う。

「変える…。そうよ…。私に問題があるなら私が変わればいいんですよね!」
「あ…。はぁ?!」
「南次郎さん!話聞いてくれてありがとうございました!」
「おいおい!ちゃん?!」

椅子から立ち上がると私は、急いで廊下を走り階段をかけあがった。

「本当に大丈夫なのか?リョーマとちゃんは…」
「さぁ?どうなのかしら」

達の話を近くで聞いていたらしい倫子の姿に気付いていた南次郎は、先ほどまでが座っていた椅子に腰掛ける倫子に不安げに話をふる。

「しかし、元気だなー…。ちゃんは」
ちゃんが来てくれて、家が明るくなったわね」

倫子と南次郎は、意気込んで去っていったの背中を優しい目で見つめていた。



「大丈夫。落ち着いて…。穏やかにいこう、うん」

私は、リョーマ君の部屋の前に立っていた。

「よし!」

と気合いを入れてノックをしようとした。その瞬間…。

ガンッ!

突然ドアが開き、おでこを強烈にぶつけてしまう。

「痛ッ!!」

私は痛さのあまりにおでこを抑えてうずくまる。

「あ。ごめん」

悪気もなく謝るリョーマ君の声にバッ顔をあげつつも、ぶつけて赤くなったおでこを痛そうに両手でさする。

「ちゃんと謝ってないよ、それー!」
「そこに立ってる方が、悪いんじゃない?」
「よ、用があるからここにいたんだよ!」
「あ、そう。それで?」
「なにが?」
「あるんでしょ用が。俺になんの用?」
「だから!…って、あ」

しまった。自分を変えて、リョーマ君と仲良くなるために話そうと思ってここに来たのに、これじゃあ普段の私だ。

「…やっぱり、いい」
「は?」
「ごめんね。どっか行くんでしょ?」
「まぁ、そうだけど」
「気をつけてね」
「?」

私はリョーマ君と別れ、自分の部屋に入った。

「はぁ…」

駄目だ。自分の駄目さに嫌気がさす。この家に来てこつこつと部屋の家具を並べたばかりの部屋のベッドにゴロンと転がって考える。このままじゃ、いけないと思いつつもどうもうまくいかない。打つ手無しだ。

「どうすればいいんだろ…。あー!もうー!腹が立ってきた!リョーマの馬鹿!」
「誰が馬鹿だって?」
「え?!」

こっそりと一人で呟いたはずの私の言葉に対して、聞こえるはずがない声がしたことに驚き、ベッドから起き上がる。

「ノック!」
「した。何回も」
「嘘…」
「全く、馬鹿はどっちだか」
「うっ。ごめんなさい」

ところで、一体リョーマ君はどうしてこんなところにいるんだろう。

「ねぇ、カルピン知らない?」
「え?見てないけど」
「そう。じゃあいいや」
「ちょ、ちょっと!居ないなら、一緒に!」
「いい。あんたに関係ない」

リョーマが放つ"関係ない"という冷たい言葉には、静かにこみあげてくる感情を全て言葉に込める。

「…あるわよ」
「は?」

は、部屋を出ていこうとするリョーマの手をとり、出て行こうとする足を止めさせる。

「私だって一緒に住んでるんだからね!困ってるんなら助けるわよ!関係ないなんて絶対に言わせない!」
「…わかったから。手、離して」
「あ!ごめん!」

とっさに手を握ってしまった私はリョーマ君から手を離して、すぐにドアを開けた。

「ほら、早く捜しに行かなきゃ」
「あんた本気で捜す気?」
「あんたじゃない。私の名前はだって最初に言ったよ?せめて、そろそろ名前で呼んで欲しいんだけどなぁ」
「…性格が餓鬼っぽい」
「だー!もう、うるさい!」

私がリョーマ君の言葉に反論していると…。

「ほぁら~」

という鳴き声がどこかから聞こえてくる。

「この声は…」

私たちがその声に耳を澄ます。どうやら、庭から聞こえてくるようだ。私が庭へと足を向けたその瞬間。

「ほぁらー!」
「きゃあ!」

ガサッ!と、庭の方の草むらからカルピンが飛び出してきた。思わず、私にむかって飛んできたカルピンを胸のあたりで、転びつつもキャッチすることに成功はしたが…。草むらでなければ、確実にまた頭を強くぶつけていただろう。

「はぁ~…全く」
「ほぁらー」
「カルピンはいつも、私に飛んでくるね」
「ほぁら?」
「遊ぶのもいいけど、御主人様に心配かけちゃ駄目だよ」

ポンポンと、私は胸のあたりにいるカルピンの頭をなでながら立ち上がった。

「はい、リョーマ君」
「…」

私は、胸に抱えていたカルピンをリョーマ君に手渡す。リョーマ君の腕の中で気持ちよさそうにするカルピンを見て、なんだかホッとした私は、家に上がり部屋に戻ろうとした時、リョーマ君に呼び止められた。

「ねぇ」
「なに?」
「サンキュ…
「え…」

その声に私は足を止めてリョーマ君の方を振り返ってみる。今まで見たことがなかったリョーマ君の大胆で悪戯が成功したような不敵な笑みに思わず胸が鼓動した。

「リョーマ君…私の名前…」
「呼べって煩く言ったのは誰?」
「いや、確かに私だけど…」
「一応、俺も言っとくけどの呼び方だって無しだから」
「え?なにが?」
「呼び捨てでいいから」
「えっ!」

リョーマ君の言いたいことをやっと理解できた私は、なんだか急にそんなことを言われても照れくさくなってしまう。

「今のの呼び方だと、どうも見下されてる気がして腹立つんだよね」
「それは気にしすぎじゃない?」
「それに、さっき部屋で呼んでたじゃん」
「あ、あれは、怒ってたからだよ!」
「なんで?」
「っ!…リョーマが冷たいからでしょ!」
「そう?」

リョーマは満足したように微笑む。彼は一体、なんなのだろうか?私より年下なのに、どこか余裕な態度。私に残るのは敗北感しかない。

「私の方が年上のはずなんだけどなぁ」
「精神年齢は、俺より下だよね」
「ええー!そんなことないよ!絶対!」
「そういうところが餓鬼っぽいんだよね」
「あー!馬鹿にしてる!」

正直、今は何を言ってもリョーマに勝てる気がしない。出来るだけ早く私はこの場から去りたい気持ちでいっぱいだ。


「なによ」
「俺の部屋来る?」
「部屋には入らな、い…って、え?いいの?!」

私は、瞬時に足を止めてリョーマの方を振り返る。

「嫌ならいいけど?」
「行く!絶対行く!」

あれだけ頑なに入ってくるなと言われていたリョーマの部屋にいける。それだけで、リョーマとの距離が一気に縮まったようでどんどん心が温かくなる。ただ、リョーマと仲良くなりたかった。はじめは家族として、認めて貰いたかっただけだった。



「やったー!私の勝ち!」
「…にゃろう」
「リョーマが弱いんじゃない?」
「1回勝ったくらいで、調子にのらないでよね」
「じゃあ、もうひと勝負する?」
「当たり前」

私は、ゲームのコントローラーを握り、リョーマの部屋にあるテレビの画面へと目を向ける。

「じゃあ、張り切っていこう!」
「悪いけど、次は俺が勝つから」
「ちょっと!なに!今の?!」
「俺が勝つって言ったじゃん」
「女の子をいたわりなさい!」
「長剣振り回すキャラ選んどいてよくいうよ」
「充分私は、女の子よ!」

ただ、家族として認めてもらえるだけで良かったのに、今は、もっとリョーマのことを知りたいって思えた。一緒にいるとどこか楽しくなる。

「えー!私の負けー!」
「次で決着つける?」
「望むところよ!」

負けられないという気持ちからか、力強くゲームのコントローラーを握る。

「くらえ!」
「ちょっと、それは卑怯じゃない?」
「勝負の世界に卑怯なんて言葉はないのよ!」
「餓鬼」
「うるさいわよ!リョーマ!」

ゲームだろうと負けられないというプライドが二人を熱くする。そんな二人は、どこか似たもの同士の負けず嫌い

「こら!二人ともいつまでゲームしてるの!」

倫子さんの大きな声が響き渡たるまで、二人の拮抗とした戦いが繰り広げられていたのだった。

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